ガモウニュース7月号 撮影の舞台裏 CELL_松下賢治氏

Making Cover LookJul.20.2018

GAMO NEWSのテーマは「Eureka(ユリイカ)」。「わかった!」「これだ!」
古代ギリシアの数学者・発明者、アルキメデスが発した言葉。
カバー&ヴィジュアルを手がけていただいたのは『CELL』の松下賢治氏。
今までに見たことのない美しさの「発見」と「喜び」をお届けします。

松下氏がイメージする「Eureka」とは

自分が「わかった!」「これだ!」となる時は、何かに挑戦している時こそ起こるもの。今回は、“try&error”の精神で創作したいと思いました。サブテーマは「Classical Edge」。クラシカル&ビッグな80年代シルエット。女性像は、クラシカルなムードを漂わせるエッジ感のあるクールな女性。ジェンダーレスです。

2018-2019AWプレタポルテコレクションでは、マーク・ジェイコブスだけが新しいことに挑戦していると感じ、今回の作品に落とし込みたいと発想しました。ヴォーグ誌はマークのコレクションを「どうせやるならクチュールをデザイナーなら、そう思う」と解釈していま した。今は、ファッションもヘアも一般化され、ナチュラルな方向に削ぎ落とされていっています。僕もサロンワークでは街を歩けるデザインを創りますが、クリエイションワークでは、もう少し面白いことをしてもいいんじゃないかと思っています。その中でやっていくうちに「Eureka」があり、それがサロンワークにもつながっています。

 

表紙の作品

 

中面の作品(右)

 

中面の作品(左)

コンセプトシートを作成して下準備は万全に
撮影の時は必ず、テーマの解釈、ヘアのデッサン、ファッション・メイク・フォトのイメージ画像と要望、最後にメッセージを添えたコンセプトシートを作成し、チームで共有をしています。

クリエイションもサロンワークと同じで、似合わせが重要。ヘアデザインはモデルが決まってから考えます。デッサンもモデルの顔をコピーしたものを使い、似合わせます。外人モデルは確定の返事が来るのが約3日前のことが多いので、今回もほぼ3日間で全てを仕上げました。

手間はかかりますが、この段階でハマれば、当日カットで調整する必要はほぼ無くなります。逆にやらないと現場で修正することになりますし、焦りにもつながります。モデルや他のスタッフの拘束時間も限られているので、下準備は必須です。準備に苦しんで当日は楽しむ。最近はこのパターンが多いですね。

カット、カラー、スタイリングのポイント

マーク・ジェイコブスの2018-2019AWプレタポルテコレクションは、80年代のイヴ・サンローランをオーマージュしたようなクラシカルなシルエットでした。このファッションなら普通はクラシカルなサイドパートやエレガントな感じのヘアがくると思うのですが、そのまま落とし込むのはつまらないので、大枠のコンセプトは80年代とし、そこに自分の持ち味であるエッジィでパンキッシュなテイストのヘアデザインをイメージしました。造形的には3つの作品は同じフォルムですが、バイオレットのヘアは、80年代のマドンナや日本では聖子ちゃんカットのように少しサイドに流れているのがポイント。また、コレクションでは、山高帽のようなつばのあるハットを被っていたので、レッドのヘアは、マッシュの部分がクラウン、ネックの部分がつばと帽子に見立てています。



カラーは、ホーユーのヘアマニキュア「グラマージュ」を使っています。配色は全て、ファッションの配色から落とし込んでいます。こういったクリエイションの時は新しいことに挑戦できるので、あえてファッションとか建物、絵画から発想を得ることが多いですね。ウィッグでビビッドな色を使うヘアスタイルの場合、日本人モデルにはハマりづらいので、外国人モデルを使うことがほとんどです。

スタイリング剤は「TIGI」を使っています。サロンワークにも使用しますが、クリエイションの現場には欠かせないアイテムです。

クリエイションに本格的に取り組んだのは開業してから

僕がクリエイションを始めたのは20代の時。先輩の撮影に立ち会い、「こういう世界があるのか、かっこいいな」と思ったことがきっかけで、一気に美容師の仕事が楽しくなりました。休日に作品づくりを始めたのですが、コンテストに出すわけでもなく自己満足だけで創っていたので2、3年でやらなくなっていきました。

本格的に取り組むようになったのは自分の店をオープンしてからです。従業員にも、美容の仕事に楽しさややりがいを持ってもらうためでした。自分が先頭切って結果を出さなくてはと、がむしゃらに8年やってきて、スタッフの半分がクリエイションをやるようになりました。

チームでやることで自分の想像を超えた作品に仕上がる

今回の作品は、特にチーム皆の「自分にしかできない」「個性」が出るような作品にしたいという想いがありました。皆がやりたいことをやる、それが最終的に一つにまとまるというのが一番面白い方法だと思います。

カメラも自分でやっていた時期がありましたが、チームでやることで、自分が思い描いた以上のものが生まれる楽しさがあります。




サロン全体でクリエイションに取り組んでいます

何かに特化した方が、サロンの中で意識統一ができると考えています。今だったらSNSに力を入れるのか、クリエイションや技術的なことに力を入れるのか。僕が選択したのは後者です。クリエイションは、CELLにいる限り絶対。やらないという選択肢はないんです。先輩たちが苦しんでやっている姿を見ているから、後輩もやらないとは言えない。

一年生から、東京ビューティーコングレス(TBC)のコンテストには絶対参加。他のコンテストには出なくてもいいと言っています。入社3年目の女性スタッフですが、2年連続でUnder-25のウィッグ部門で入賞しています。彼女は、1年目で獲っていなかったら辞めていたと言っていました。美容学校時代に出場したコンテストでは一度も結果が出せなかったので、CELLに入ってからの自分の頑張りが表彰されて嬉しかったのだと思います。

最初はクリエイションが一番苦しむんですよね。楽しいというよりは苦しいの方が大きいんじゃないかな。サロンワークとは違う頭の使い方をする感じだから。今のコンテストのトレンドはなんだろう?とか、色々なものを見て分析してみる。出場するとなったら何かしらの賞にひっかかりたいと思うので努力するのです。結果は取れたら嬉しいけれど、取れなくてもその過程の方が大事だと僕は思います。練習して、ある一定レベルに達したら、あとは自分がうまくなるのが面白くなる。自分から練習をするようになるんです。

クリエイションをやってもらう理由としては、お客さんのためでもあるけれど、その人が美容を好きになってもらうのが一番の目的なのです。スタイリストになると売り上げとかお金を追うようになるけれど、デザインをしなくなると、「髪を切って人を喜ばせる」という美容の原点を忘れちゃうような気がするんですよ。そのためにクリエイションはあっていいのかなと思うし、最終的には、美容業界を好きになってもらう。最後はそこに意味があると思っています。


若い美容師の皆さんへメッセージ

九州はクリエイションをやっている美容師は少ないと思います。裾野を広げたい気持ちもあり、昨年からセミナー講師の依頼を受けるようになりました。セミナーでは、コンテスト対策を聞かれることが多いのですが、賞を獲ることだけが目的だけでやっていると、数年でクリエイションを辞めてしまう人が多いのです。

人は勝手に評価をするから、人の評価ってあまり意味ないかなと思うのです。それより自分のスキルアップとか自分が上手くなりたい気持ちの方が大事。楽しんで考えて、「わかった!」「これだ!」と思って満足してしまうと止まってしまうから、次に挑戦する。クリエイションは、Eurekaの繰り返し。その繰り返しが一番上手くなる。

だから、もっと楽な気持ちで、「創る」ことが好きになってほしい。そういう意味でクリエイションが広がっていってほしいと思います。この仕事が好きで、その延長線上にクリエイションがあるのが理想です。

その大切さを僕に教えてくれたのは、僕が20代前半の頃に出会ったDADA CuBiCの植村隆博さんでした。こんなに熱い人が美容業界にいるんだと自分の中で衝撃的でした。これからクリエイションを始める若い美容師さんも、そういう仲間になってくれたら嬉しいです!

COVER LOOK BY
KENJI MATSUSHITA_CELL
HAIR/KENJI MATSUSHITA(CELL)
MAKE-UP/MIKA FURUKAWA
FASHION STYLING/SAHO
PHOTO/MUNENARI MAEGAWA

松下 賢治
CELL代表。長崎県出身。2010年、CELL設立。2018年6月、自社ビル「MUC」を建設と共に拡張移転。2016年JHA大賞部門ノミネート。JHA RISING STAR OF THE YEAR /ファション特別賞。
https://www.cell-creation.co.jp